或る日記(仮)

業務外日誌。

散髪について語るときに僕の語ること

あした髪をきる。三日目に予約をしてから,ずっと憂鬱だった。今日は前日だから,特に憂鬱で,朝起きた瞬間からずっと頭の奥で,「あした髪をきるんだ…」という思いがちらちらとしていた。

 

俺は髪をきるのがとても苦手なのである。

 

第一に,人に髪を触られるのが不快である。顔と顔の距離が近くてこわい。顔の近くでハサミをちょきちょきやられるのもおそろしい。

第二に,俺のような人間と美容師のような人種との会話がはずむわけがない。向こうも商売であるから,なんとか会話の花をさかせ客を楽しませようと話をふってくるのだけど,俺は期待にこたえることが一切できないので,美容師のこの涙ぐましい試みが実を結ぶことはまずない。すなわち,客たる俺は会話をふられて楽しい気持ちになることはないのである。のみならず,俺はその日一日,いや,一週間ものあいだ続くこともあるだろう,「なんで俺は爽やかに人との会話を楽しむことができないのだ…芸能人の話であるとか,学校のこと,いやこの際天気のことでもいいだろう,なんでもいい,当り障りのない会話を当たり障りなくこなす,社会人として最低限のスキルである,俺は…俺は…」と落ち込んで過ごすことになるのである。

第三に,なぜこのような嫌な思いをして俺が金を払わなければならないのだ。阿呆か。あべこべの道理である。

 

 

もっとも,ネットにこのようなことを書いているような人間も,実際に現実世界では,なんともないというふうに,へらへらと美容師と会話していたりするものだから要注意である。